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大阪地方裁判所 昭和47年(行ウ)99号 判決 1979年4月23日

原告(選定当事者)

上杉澄

栗林計文

右訴訟代理人弁護士

河村武信

海川道郎

被告

大阪市

右代表者市長

大島靖

右訴訟代理人弁護士

俵正市

苅野年彦

主文

一  被告は原告らに対し金二一九八万一〇七一円及びこれに対する昭和四八年二月七日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、第一項記載の金員につき三分の一の限度において仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告らに対し、金二一九八万一〇七一円及びこれに対する昭和四八年二月七日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  担保を供する仮執行免脱宣言。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  別紙(略)一記載の選定者四六名(以下、選定者らという)は、いずれも大阪市立の別紙三学校名欄記載の各学校・園に勤務する校務員であって、地方公務員法第五七条の「単純な労務に雇用される」地方公務員であり、被告は選定者らに対し給与支払の義務を負う者である。

2  選定者らの本来の勤務(以下、本務という)は、月曜日から金曜日までは午前八時三〇分から午後五時一五分(休憩時間四五分を含む)まで、土曜日は午前八時三〇分から午後〇時三〇分までである。本務以外の宿直勤務は午後五時一五分から翌日午前八時三〇分までであり、そのうち午後一〇時から翌日午前五時までの間は深夜勤務に該当する。また、日曜、祝日の日直勤務は午前八時三〇分から午後五時一五分までである。

3  選定者らは、昭和四五年七月一日から同四六年六月三〇日までの間において、大阪市教育委員会の指示を受けた各選定者ら所属の各学校・園長からそれぞれその命令を受けて、本務以外に別紙三記載のとおり宿直・日直勤務(以下、宿日直勤務という)に従事した。

4  選定者らがなした右宿日直勤務に対する労働基準法(以下、法ともいう)第三七条所定の割増賃金(以下、超過勤務手当という)は、別紙四各D欄記載のとおりであり、その算出方法、支払期日は、以下(一)ないし(三)記載のとおりであり、超過勤務手当算出の基礎となる選定者らの本俸及び調整手当の金額は、別紙四の本俸、調整手当各欄記載のとおりであり、右によって算出される超過勤務手当の計算関係は別紙四記載のとおりである。

(一) 宿日直勤務の時間数は、超過勤務手当の支給割合を異にする時間帯毎に一か月を積算し、一時間未満の端数はその端数が三〇分以上のときは一時間とし、三〇分未満のときは切り捨てる。

(二) 一時間当りの超過勤務手当額は、深夜勤務を除く宿日直勤務については本俸と調整手当の合計金額を一八七・五で除して得た数に一〇〇分の一二五を乗じた金額であり、深夜勤務については本俸と調整手当の合計金額を一八七・五で除して得た数に一〇〇分の一五〇を乗じた金額である。

(三) 超過勤務手当は、当月分を翌月二〇日に支給する。

5  しかるに、被告は選定者らに対し、宿日直手当として選定者らのなした前記宿日直勤務各一回につき金一〇〇〇円の割合による金員を支払った(選定者らの受領した宿日直手当金額は別紙四の既受取金額欄記載のとおり)のみで、その余の支払をなさない。

6  よって、原告らは被告に対し、選定者らの前記4記載の超過勤務手当から既に宿日直手当として受領した金額を差し引いた未払超過勤務手当(別紙二請求金額欄記載の金員)合計金二一九八万一〇七一円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四八年二月七日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし5の事実はすべて認める。

三  抗弁

1  選定者らの宿日直勤務は、次のような理由により法第四一条第三号にいう断続的労働に該当し、かつ労働基準法施行規則(以下規則という)第二三条所定の所轄労働基準監督署長の許可(以下、二三条許可ともいう)に値する内容のものであるから、法第三二条ないし第四〇条の規定は適用されず、よって被告は選定者らに対し、超過勤務手当を支払うべき義務はない。

(一) 選定者らの本務の内容は、平常勤務としては一日二回午前・午後の区役所への逓送便、大阪市教育委員会・銀行への連絡、職員室・校長室その他校舎内外の清掃、施設・器具の修理、ガス湯沸かし器を使用して湯茶を沸かすことなどであって、常態として身体または精神緊張の少ないものであり、手待時間が作業時間より多く断続的労働に該当するものである。

(二)(1) 宿直勤務の内容は、廊下のシャッターを閉め、職員室・校長室・事務室を施錠し、緊急電話・文書を収受し、非常事態の発生に備えることなどであるが、選定者らの勤務校内には火災報知器・防犯警報器が備えつけられ、校務員室・宿直室に仮眠設備がある。

なお、通常、当日午後一〇時から翌日午前五時までは就寝時間である。

(2) 日直勤務の内容は、門を開閉し、緊急電話・文書を収受し、非常時の連絡をすることなどである。

(3) 宿日直勤務は、主として宿直室内で従事する。各室の火元・戸締りの責任は教員に分担させることとし、当番の教員が手分けして施錠等を行なっている所もある。また、引継ぎにあたっては簿冊を設定しこれによって行ない、時間外の学校使用においては宿日直者を煩わさないことにしている。

原告らは、宿日直勤務中決まって行なう労働として校舎の施錠及び巡回、職員室・校長室の清掃並びに早朝の諸業務の三つをあげ、このための実働時間として四時間半ないし五時間はかかる旨主張するが、組合の実施した実態調査によっても右三業務のための実働時間は最高一九五分最低九〇分にすぎない。

(4) 以上、要するに選定者らの宿日直勤務は、法第三二条、第三七条等でいう通常の労働時間の労働とは異質の極めて軽微かつ間歇的な勤務であり、労働時間が少なく手待時間の長いものであって、前記本務の内容と合せ一体として考察しても決して過重な負担となるものではなく、法第四一条第三号にいう断続的労働に該当する。

(三) ところで、法第四一条第三号の断続的労働の要件として以下の四点があげられる。

(1) 作業自体が本来間歇的に行なわれるもので、したがって、作業時間が長く継続することなく中断し、しばらくして再び同じような態様の作業が行なわれ、また中断するというように繰り返されるものであること。

(2) 実作業時間の合計より手待時間(労働時間中の実作業に就かない時間であって、休憩時間を含まない)の合計が多く、かつ、実作業時間の合計が八時間を超えないものであること。

(3) 労働及び手待時間中の危険性ないし有害性または精神緊張度の高いものでないこと。

(4) 断続的労働従事者については、労働時間・休憩のみならず休日に関する規定も適用されないのであるから、ある一日は断続的労働であっても他の日に通常の勤務に就くというような形を繰り返す勤務については、休日に関する規定を排除しても労働保護上差し支えないとする理由が成り立たないので、「常態として断続労働に従事する者には該当しない」こととなり、除かれるべきであること。

行政実例は、右四要件を前提として小学校の用務員について原則的に監視または断続的労働であると認定している。

また、法第四一条第三号にいう「断続的労働に従事する者」とは、断続的労働を本務とする者に限定されない。すなわち、同条同号の規定は、その規制対象を必ずしも断続的労働を本務とする者に限定するものと解すべきではなく、他の業務に従事する者がその本務以外にこれに附随して宿日直勤務に従事する場合においても、この両種の業務を合わせ一体として考察し、労働密度の点から過度の労働に至らず、労働時間、休憩及び休日に関する法的規制を宿日直勤務に関する限り除外しても労働者の保護に欠けるところがないと認められる場合をも包摂する趣旨の規定と解するのが相当である。

(四) 規則第二三条は、宿日直勤務のうちでも比較的軽易な労働内容の断続的業務について、法第四一条第三号の適用があることを示したものであり、右の限定された趣旨において規則第二三条は法第四一条第三号に基づく解釈規定であると解すべきである。規則第二三条は、種々の断続的労働のなかで、労働そのものとして比較的軽易な宿日直についての規定であり、この点からも合理的な規定である。

(五) 被告は、校務員一人による宿日直の実施により宿日直勤務についた校務員の引継ぎ事務の増加に対し、一時間の勤務時間の延長という取扱を定め、昭和四四年一二月一日以降三〇〇円の手当を支給すると共に、本来の宿日直手当として条例(昭和四五年四月一日条例二四、昭和四六年四月一日条例一八)第一八条に定める範囲内で、宿日直一回につき七〇〇円を支給してきた。したがって、宿日直勤務一回につき、合計一〇〇〇円を支給してきたことになる。

二三条許可に関する昭和三〇年八月一日基発第四八五号通達によれば、同種の労働者に対して支払われている賃金の一人一日平均額の三分の一を下らない手当額の支給をすることが右許可の条件となっているところ、前記宿日直手当は右基準をはるかに超えるもので、宿日直勤務の対価としては充分な金額であり、相当な手当を支給してきたものである。選定者らの宿日直勤務は前記1(二)記載のとおりであり、それに対し右相当を支給してきているのであるから二三条許可を受け得る勤務である。

(六) 大阪市教育委員会及び選定者らが勤務する各学校・園長は二三条許可を受けていないが、前記のとおり、選定者らの宿日直勤務は実質的に二三条許可を受け得る職務内容であるから、右許可を得ずしてなされた宿日直勤務であっても法第三七条の超過勤務手当を支払う義務はない。

2  時効消滅

選定者らの本訴提起は昭和四七年一二月二三日であり、選定者らの昭和四五年一一月以前の宿日直勤務に対する超過勤務手当請求権は、前記(請求原因4(三))各支払日から二年を経過したことにより時効消滅した。

右時効の抗弁は、地方自治法第二三六条、労働基準法第一一五条によるもので、援用する必要がなく、訴訟手続上も主張する必要はない。

仮に主張を要するとするならば、昭和五三年一〇月一六日の口頭弁論期日に主張した。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の主張は争う。

同1(一)の事実中、選定者らの本務が断続的労働に該当するとの点は争う。選定者らは、本務として被告主張の職務を含め次のような職務を行なっている。

(一) 毎日必ず行なう定型的な業務

(1) 清掃業務

午前八時三〇分の始業時から職員朝会に参加して、教頭または校長から当日の学校行事、運営についての予定、教職員からの連絡などの伝達を受けた後、当該学校所属の校務員全員が分担箇所を定めて一せいに校門、校庭、校舎周り、道路、便所の清掃作業にとりかかり午前一〇時頃まで行なう。学校は広く、便所の個数も多いので朝の清掃は容易な作業ではない。また、運動場、校舎周りの清掃もガラス片を拾い集めたりして児童・生徒の怪我や危険を防止することに注意し、諸設備の補修箇所の有無の点検をも兼ねているのである。

(2) 逓送業務

午前一〇時頃には逓送業務がある。市・区役所、教育委員会、他の学校・園から学校宛の文書が学校所在地の区役所に収集され、逆に学校から右の各機関宛の文書をまとめて区役所に持参し、区役所でそれら文書の授受を行なう。逓送も物理的な運搬作業にとどまらず、授受される文書に関する必要な説明の伝達、不備な書類の補正の指摘があれば、それを担当者に伝えて補正を求めるなどして遂行される。

(3) 入出金業務

同時刻頃に校費、学級費、PTA会費等の入出金業務のため、金融機関に出かける。預金通帳の数は学校に一通ではなく教員一人で最少限三冊の通帳をもっている所もある。さらに、校費の各費目、PTA会計等いくつかの通帳があり、これらの入出金がその必要の都度行なわれ、比較的少額な口であっても厳格な取扱いを求められつつ大量の口数の入出金となるから、担当校務員の精神緊張と責任は決して軽いものとはいえない。

なお、午前一〇時頃から正午近くまで二名が前記逓送、入出金業務に従事し、残った者は後述する常時遂行すべき業務に従事しているのである。

午後にも約一時間三〇分一名が前記同様の入出金業務に従事する。

(二) 日常的に常時行なわれる業務

(1) 清掃作業及び塵埃の処理などの業務

前記朝の清掃作業のみで校内の清掃、美観を保持できるものではないので、校務員が自主的に、場合により管理職や教員の指示に従って、日常的に午後の勤務として常時側溝、屋上、校舎の裏、児童・生徒の清掃作業で不十分な校舎、講堂等の清掃など広範な場所を順次清掃し、除草し、整理整頓している。塵埃の処理についても、児童・生徒が毎日投棄するについて、それを教育的観点を配慮しつつ援助して完成させ、その後始末をつけたうえ、週二回の塵埃の回収時には、回収業者に協力してその処理を円滑、完全に行なわせる必要がある。これらが常時校務員の業務として遂行されている。

(2) 校舎施設、設備、教具類の整備・補修などの営繕業務

校内の電気・ガス・水道・下水道などの設備の現状を把握し、その簡易な修繕、専門業者の施工・工事に対する協力もまた校務員の業務である。特に年少の児童・生徒が多数利用する水道の利用について、漏水の有無や、栓の正常な開閉の可否の点検、あるいは不良なものの応急的修理を求められ、また、汚物による排水の不調は常時発生するといっても過言ではない。したがって、その都度下水の整備も不可欠な業務としてこれを担うのである。窓ガラス・電球の入れ替え、ストーブ・扇風機の設置、調整、保管、机・椅子・黒板・朝礼台の修理、教材の整備などは校務員がその職務として遂行しているところである。また、校務員の中で大工仕事の特技をもつ者は掲示板・演壇・ベンチ・目隠屏を作り、建物の庇を取付けるほかコンクリート通路・会所の新設等の作業まで行なっている者もある。

(3) 園芸作業、小動物の飼育などの作業

学校・園には多くの樹木・草花があり、花壇・藤棚等が設けられていて、これらの栽培、剪定、維持、管理の作業も校務員の業務として日常的に行なわれている。鶏・兎・小鳥・リス・犬・金魚等の小動物の飼育についても同様である。また、これらが児童・生徒の教育の一環として行なわれる場合(特に年少者の場合)にも、校務員の手助け、援助がなければならず、樹木・動物の名称、性質、育成方法を教え、作業の手本を示すことも校務員によるところが大きいのである。

(4) 受付、監視などの業務

校務員室は校門の入口付近に設けられ、学校の受付を兼ねている。学校への来訪者は意外と多く、父兄はもとより、各種業者、地域住民、卒業生、警察・消防署、教育委員会の職員、市・区役所職員が来訪し、校務員はこれらと応接して必要な連絡、案内、湯茶の接待をその業務として行なっている。特に児童・生徒の忘れ物(傘・弁当・教材等)の父兄からの届け、伝達は日常茶飯事であり、これとてゆるがせにできないところである。また、開放的な学校の校内には外部からの侵入者もあり、危険物の持ち込みや、児童・生徒に危害を加える侵入者の発見、危険防止のため監視することは精神の緊張を伴う業務であることはいうまでもない。

(5) 連絡、物品の授受、搬送、立会などの業務

前記逓送業務のほかに学校と他の学校、諸官庁、地域諸団体、PTA役員、医療機関(保健所・校医)との間の相互間における書類の交付、口頭による伝達によって行なわれる連絡業務もまた種々雑多なものがある。また、教材・給食用材料・備品等の授受、搬送及び検品、数量の確認、さらには螢光灯・電池・やかん、フィルム・園芸用品・縄・釘等の物品購入の業務も校務員が行なう。これらは随時日常的に発生する業務であって、繁閑の差はあっても毎日確実に発生していたこというまでもない。

(6) 湯茶沸し、給食の搬送等児童・生徒の世話をする業務

これらが児童・生徒と直接的に接して連日校務員によって行なわれている業務であることはいうまでもない。

(三) 学校行事に付随して生ずる業務

学校行事を成功裡に行なうことは教育効果を達成するうえで極めて重要な意味をもつものであるが、年間学校行事としては、入学式、春の遠足、家庭訪問、プールの運営、修学旅行、林間・臨海学舎、秋の遠足、運動会、社会見学、教科市・区の研究会、新一年生の適正入学への広報、耐寒訓練、卒業式があり、これらに付随して校務員は入学式、卒業式、運動会の会場整備、飾りつけなどの設営、備品・用具の点検・備付、収納等の業務を行ない、遠足、林間・臨海学舎、修学旅行、耐寒訓練に付添って事故の発生を防止し、迷い子の探索、誘導、必要な救護、連絡等の業務を行なうのである。また、家庭訪問に際しては、教員を家庭に案内する必要もあり、研究会についてはその会場の設営、湯茶の接待、その後始末、さらには新規入学生への身体検査、テスト実施要領の地域へのポスター貼付、不参加児童の家庭を訪問して事情を調査する業務も校務員が行なっているのである。

これらが円滑に遂行されることの必要及びそれ自体およそ単純な作業とはいい得ないことはいうまでもないところであろう。まさに校務員は学校教育を遂行するうえでの不可欠な補助者としてこれをみるべきである。

(四) 突発的な緊急事態によって発生する業務

学校には種々の緊急な事態が発生する。その多くは児童・生徒の事故、病気であるが、教員は授業を放棄することができないので医療機関への同行、父兄への送り届けは校務員によって行なわれる。さらに、非行のあった児童・生徒について、校長等の指示により警察へ赴いて身柄を貰い受け、父兄に連絡をとるなどの業務が発生する。そして、火災や震災等の事態が発生すれば、防災に努め、学籍簿等を持出し、しかるうえ教員と共に児童・生徒の安全をはかってこれを救護、誘導すべきことがその任務として求められていることはいうまでもないところである。

校務員は以上に記載したような実に広汎で種々雑多な業務を常時かつ随時遂行すべき義務を負っているのである。前記(一)ないし(四)の業務が渾然一体となって間断なく展開され、「手待ち」の状態にはほとんどならないというのが勤務の実情であるから、単純な業務が間歇的に行なわれているとはいえない。校務員は、かつて「小使い」と呼ばれ教師に身分的に隷属し、教師の私用も含めて使い走りをするものとみられていた。現在でも右のような状態が完全に解消されているとはいえないが、戦後、教育理念は発展し、学校を教育活動の拠点としてとらえ、学校に勤務する全職員が一体となって学校を運営し、教育活動も教室内の授業のみに限定してみるのではなく、児童・生徒の学校における生活全体を広く把握して教育活動を展開するに至り、校務員も学校に勤務する職員として学校の運営及び児童・生徒の教育活動に参加する自覚の下に職務を遂行するに至っている。現に、校務員は教育環境を保全するために運動場を整備し、校庭の緑化、美観を維持することに尽力し、直接児童・生徒と接する機会にしつけを教え、危険な行動や非行化する児童・生徒の指導、校外学習の附添、健康や安全に支障のある場合の養護や連絡などの生活指導を行ない、さらに、授業を円滑に行なうための教材の購入、備品の整備の業務や学校間、地域との連絡、伝達業務など文字どおり学校教育の推進にとって必要不可欠な具体的職務を担ってこれを遂行している。また、校務員は常に児童・生徒の学校生活と共同する中でその労働を展開しているのであり、校務員の作業も未分化な状態であって、模倣性の強い児童・生徒に対し、まず安全をはかり、手本を示し、注意援助するなどの配慮をもって遂行されなければならず、しかも、それらは児童・生徒の発展段階に照応した態様が求められるのである。それ故、校務員の作業は満足な結果のみならず、作業過程自体が教育的機能を担うものである点に特徴をもつ。また、学校は地域社会における社会教育の場であり、学校教育は地域社会によって支えられている。校務員の業務も学校と地域社会を結合する役割を担うものがあり、これらの業務も増加し重要なものとなっている。

以上のように、校務員の担う労働は学校教育の推進にとって不可欠な職務を分担し、多種多様な作業が終日生起し、かつ教育的機能を作業自体が帯有するという点において特徴があり、単純な作業自体が本来間歇的に行なわれるといったものではなく、校務員の労働は精神緊張度の高いものである。

2  抗弁1(二)(1)及び(2)の事実中、宿日直勤務としてその主張にかかる作業があること、通常当日午後一〇時から翌日午前五時までは就寝していることは認め、同(3)及び(4)の事実は否認する。

選定者らの宿日直勤務は右に尽きるものではなく、宿日直勤務として以下の業務を行なっている。

(一) 宿直勤務

宿直勤務は、本務終了後引続き、休憩時間もなく午後五時一五分から翌日午前八時三〇分までの間継続するが、そこで行なわれる労働の内容は、およそ次に述べるようなものである。

(1) 毎回必ず行なわれるもの

(イ) 校舎の施錠及び巡回

施錠業務とは、学校の業務が終了した後、部外者の侵入を防止するために、すべての出入口の施錠を行ない、また、シャッターを閉鎖する。しかし、この業務については、それと同時に他の多くの重要な業務が行なわれている。すなわち、すべての教室に立ち入って残留者の有無を確認し、窓がすべて閉っているか否かも点検して、開いている窓があればそれを閉め、また、便所などについては、必ずそこに立ち入って外部の侵入者の有無を確認しなければならない。さらに、校内のガスの元栓の閉鎖、ストーブなどの消火、電灯の消灯、漏水の有無などの確認を行なう。このような施錠及び点検業務は、広い全校舎内を一人の宿直者のみによって行なうため、少なくとも一時間半ないし二時間を要する。

(ロ) 職員室及び校長室の清掃

職員室と校長室の清掃は、椅子をどけて床のほぼ全面について掃き掃除を行ない、すべての机の上や書棚の桟などを雑巾で拭き、湯呑や灰皿を清掃することなどが主な内容となっている。これに要する時間は約一時間である。

(ハ) 早朝の諸業務

早朝に行なわなければならない主な業務は、すべての出入口の解錠、シャッターの開放、校門の開放を行ない、玄関の清掃を行なったうえ、職員室及び校長室に湯呑、お茶、ポットなどを用意し、給食材料の搬入に立会って数量などの確認や搬入の手伝いを行なうなどである。こうした早朝の業務は、全体で少なくとも二時間は要する。

以上が、宿直勤務者が毎回必ず行なわねばならない業務であり、これらに要する時間は少なくとも四時間半ないし五時間である。

(2) 毎回必ずあるとは限らないが頻繁にある業務

(イ) プールの設備に関する業務

夏場はプールの設備を利用するが、それに伴って、宿直者は水の入れ換え業務や夜間の安全管理業務などを行なわなければならない。前者は、夕方に水を抜き、三ないし四時間で水が完全に抜けた後注水し、さらに深夜に注水状況を点検して朝までに満水になるよう注水量を調整することなどが主な業務内容である。後者は、夜間侵入してプールで泳ぐ者がいるかどうかに常に注意を払い、そうした者がいる場合は、すみやかに校外に退去させることがその業務内容である。

(ロ) 各種会合の準備、後片付け

公立の小・中学校は、地域住民の生活と密接な関連を有し、社会教育や文化的諸行事などのための各種の会合が校舎内で夜間頻繁に行なわれており、そのための準備や会合の後片付けが宿直者の重要な業務となっている。こうした会合は、ほとんどが午後七時頃から始まるが、その開始までに宿直者は会場の設営や湯茶の準備を行なう。また会合の終了はほとんどが午後一〇時頃になるが、その後片付けとして、湯呑・灰皿の清掃、机・椅子の整頓などを行なわなければならない。さらに会合が行なわれている間も、会合出席者への電話の取りつぎなどの業務が行なわれている。こうした業務は、少なくとも一時間以上は要するものである。

(ハ) 電話や外来者の応対とその処理

宿直勤務時間中、学校に電話がかかってくる場合が多い。たとえば、父兄からの児童・生徒の下校確認、教員の住所などの問い合わせ、児童・生徒の欠席あるいは遅刻の連絡、天候が不順な場合の遠足などの学校行事の決行の有無の問い合わせ、警察からの生徒の補導の連絡など、さまざまな電話がある。宿直者は、そのすべてについて応対しなければならないと共に、必要に応じて教員への連絡など必要な処置をしなければならない。

また、宿直勤務中には、外来者たとえば取引業者などが学校を訪ねてくる場合がよくある。その場合もその応対を行なうとともに必要な処置をとらなければならない。

(二) 日直勤務

日直勤務は、休日の午前八時三〇分から午後五時一五分までであるが、この間に従事する業務の主な内容は、電話や外来者の応対とその処理、校舎や校庭を使用する各種会合や行事の準備と後片付け、プールや運動器具などの設備の安全管理などがあるが、その具体的内容は宿直勤務の場合とほぼ同様である。

(三) 以上述べた宿日直勤務の実態の特徴はおおむね次の諸点にある。

(1) 宿日直勤務中に従事する業務の内容は、本務と同一ないし類似のものが多くある。ただその性格は教育的なものから管理的なものへとその重点が移行するが、出火や盗難などの事故が発生すれば法的及び社会的責任を追求される立場にあり、その意味で精神緊張が要求される業務である。

(2) 宿日直勤務の間は、そのすべてが拘束された時間であることはもちろんであるが、そのなかで実労働時間の占める割合がかなり高いことが重要な特徴である。特に、宿直勤務の場合は毎回必ず行なわなければならない業務が実労働時間として少なくとも四時間半ないし五時間もあり、それに毎回必ずあるとは限らないが、頻繁に行なわれる業務が数多くあり、そうしたものを含めると毎回の宿直勤務中には少なくとも六時間以上の実労働時間があるといわなければならない。

(3) 本件で問題とされている宿日直勤務は、それだけが独立して単発的に行なわれるのではない。すなわち、宿直勤務の場合は本務に引き続いて行なわれ、その終了後に翌日の本務が継続するため、結局、必ず連続して三二時間もの長時間が拘束された時間となる(しかもそこに占める実労働時間の割合は少なくとも六割から七割にもなる)。しかもこうした宿直勤務が週二回も強制されていたのである。また、日直勤務の場合も本務及び宿直に引き続いて行なわれることがよくあり、こうしたときも連続した三二時間のすべてが拘束時間となる。なお、本件では、なかには宿直勤務を連続して二日間行なっている者もあり、この場合は結局五六時間もが連続して拘束時間となっている。

(4) 宿直勤務については、そのなかに就寝時間が午後一〇時から翌日午前五時まで認められているが、この時間帯ももちろん拘束時間であって自由で解放された時間ではない。特に、いつ災害や事故が発生したり、電話や来訪者の応対をしなければならないかもわからず、常に待機時間的な意味をも兼ねており、仮眠程度の睡眠しかとれないのが実態である。また、就寝時間にあたる深夜は、宿直者の身体の安全に対する危険性が著しく高く、現実に学校の宿直者が殺人等の被害者となるケースが数多く発生している。こうしたことからも就寝時間帯の宿直者の精神緊張度は相当に高いものとなっている。

3  抗弁1(三)及び(四)は争う。

労働基準法は、第四章の労働時間等を規定するにあたって、当該労働者の従事する労働については、本務とか付随的労務とかの区別をせず、その労働者の労働全体を通覧して、その労働の性格を規定するという態度をとっている。したがって、たとえば法第三七条の適用に関しても、同一の労働者がある労働についてはその適用を受け、他の労働についてはその適用を否定されるというような事態を全く予定していないのである。すなわち、第四章の労働時間等に関する原則規定の適用が除外される例外的な場合は、法第四一条に該当する場合のみであるが、この規定は、あくまで一定の業務に従事する労働者を対象としているのであって、その時々に従事する労働そのものを対象としているのではない。したがって、たとえば当該労働者の従事する労働が全体的にみて監視または断続的労働である場合は、その労働者は、第四章の労働時間等に関する原則的規定の適用を全く排除されるが、逆に当該労働者の従事する労働が、全体的にみて監視または断続的労働でない場合は、その労働者は、第四章の労働時間等に関する原則的規定の適用を全面的に受けるのであり、たとえ部分的に監視または断続的労働を行なったとしても、その部分だけ例外的な取扱いを受けるのではない。これが、第四章の労働時間等に関する規定の仕方であり、このことは、行政当局も是認しているところである。すなわち、行政当局は、法第四一条第三号の解釈について、断続的労働に常態として従事する者であることを要件としており、たとえば、「一週のうち第一日目は監視、断続的労働、第二日、第三日目は通常の労働、第四日目はまた監視、断続的労働といったように、断続的労働と通常の労働とを繰り返すような労働者については、断続的労働とはみなされない」としている(昭和二八・二・一三基収第六三一一号)。

法第四章の労働時間等に関する規定、特に第四一条の規定を以上のように解することは、その文理上からも当然であるが、このことは、法が労働者保護法であることからもまた当然といわなければならない。すなわち、八時間労働制及びそれに付随する規定は、労働そのものが本来従属的なものであることから、これに一定の時間的限定を加えることによって労働者を保護しようとしているのである。したがって、この制度は本来従事する労働の種類にかかわらず全労働者に適用されるべきものであるが、政策的にその例外を認めるとしても、それは、当該労働者の従事する労働全体の内容を評価して、この規定の適用を除外してもその労働者にとって過酷にならないと認められる場合に限られなければならない。このことは、逆に、その従事する労働全体の内容を評価して、適用除外を認めるべき例外的な場合とは認められない労働者についてはこの規定に基づく厳格な時間的限定が守られなければならず、八時間を超えて行なわれる労働は、それが監視的であろうと断続的であろうとその内容にかかわりなく、すべて特別な労働として本人の同意なしに強制されてはならないのであり、このように規定することによってはじめて労働者保護法に値するといえるのである。

規則第二三条は、本来の業務(これは監視または断続的労働ではない)を別にもつ者が、その業務の終了後に付随的に従事する宿日直という特別の労働のみを対象としており、これは、前述した法第四一条の規定の仕方と全く異質のものである。したがって、規則第二三条の根拠を法第四一条第三号に求める解釈は、法第四一条第三号の要件として、断続的労働に常態として従事する者であることを要求している前述の行政解釈と論理的に矛盾するといわなければならない。また、規則第二三条は、規定されている位置からみても法第四一条第三号の解釈規定とはいえない。すなわち、規則第二三条は、法第四一条とは関係のない労働時間の計算に関する規則第二二条と第二四条との間に位置しており、法第四一条第三号に基づくものとして規定されている規則第三四条とはあまりにもかけ離れた位置に規定されている。むしろ、規則第二三条は、右のように労働時間に関する規定のなかに位置され、かつその文理上においても「法第三二条の規定にかかわらず」とされていることからしても、法第四一条とはかかわりのない独立した法第三二条(労働時間)の例外規定と解するしかないであろう。行政解釈は、規則第二三条は、法第三四条(休憩)及び第三五条(休日)の適用をも排除しており、単に法第三二条だけをあげているのは例示にすぎないとしているが、あまりにもご都合主義的な解釈である。

規則第二三条は、法第三二条の例外を定めた規定で、しかも法第四一条にその根拠が求められず、法上にもその根拠条文を見い出すことはできないから、規則制定権の範囲を逸脱する点において憲法に違反すると共に、労働条件に関する基準を法律によらないで定めたものとして憲法第二七条第二項に違反する無効な規定といわなければならない。

規則第二三条につき憲法違反の疑問を強く呈しつつも、わが国で宿日直勤務が広く行なわれている実態から、これを違憲・無効な規定といいきることに躊躇を感じ、宿日直勤務を野放し状態にせず監督官庁の許可にかかわらしめた方が保護法的目的にかなうという理由で、これを合憲的に解そうとするものがあるが、こうした考え方は、立法論と解釈論とを混同したものであり、労働者保護を目的として、労働条件の最低基準を定めた法の解釈としては正しくない。けだし、わが国で宿日直勤務が広く行なわれている実態があるということから、解釈的にもこれを是認しようとする態度は、定められた最低基準以下の実態を規範化するものであって、労働条件の最低基準を定めた強行規定としての法の生命を失わせるものである。

また、宿日直勤務を野放し状態にせず、監督官庁の許可にかかわらしめる方が労働者保護の目的にかなうという善意の発想も、労働者保護という観点からすれば一歩後退した議論であって、法が労働条件の最低基準を定めたものであるならば、これを厳格に解釈してそれに反する違法状態を除去する強力な行政指導をこそ監督官庁に求めるべきである。いずれにしても、時々しか行なわれず、しかも労働密度もそれほど高くない付随的な労働について、厳格な手続と割増賃金を要求することは現実的でないという考え方は安易すぎる。前述したように、本来本務について八時間労働制が適用される場合は、それを超える労働はその内容如何にかかわりなく、特別な労働として本人の同意なしに強制されないなど保護規定の適用が徹底されて、はじめて八時間労働制の労働者保護法としての趣旨が生かされるといわなければならない。

以上のように、本務が監視または断続的労働でない場合は法第四一条第三号に該当せず、また、規則第二三条が憲法に違反する無効な規定であることからすれば、右1(一)記載のとおり、本務が監視または断続的労働でないことが明白な本件では、それに引き続く宿日直勤務は、その内容にかかわりなく、法第三七条に基づく所定の時間外割増し賃金が支払われるべき労働といわなければならない。

4  抗弁1(五)は争う。

本件宿日直勤務は規則第二三条の「断続的な業務」にあたらない。

仮に、規則第二三条が合憲・有効な規定であるとしても、違憲・無効の疑いが多分にあると共に、法で定められたものの例外を認めるものであるから、その解釈は厳格にされるべきである。特に、規則第二三条は、本来断続的な労働でない通常の本務をもつ者が引き続き宿日直勤務をする場合であるから、そこでの「断続」の解釈は本務を対象として判断される法第四一条第三号の「断続」よりもより厳格になされなければならない。この点は、行政解釈も認めているところであり、「常態としてはほとんど労働する必要のない勤務のみを認める趣旨」であるとしている(昭和二二年九月一三日基発第一七号)。規則第二三条を合憲と解釈するならば、少なくとも「断続」の意味をこのように解することが最低の条件といわなければならない。

前記通達は、「断続」の意味をこのように解釈すると共に、許可を与えるための基準を勤務態様、手当、頻度、設備などの面で設定している。このうち、勤務態様については、「原則として通常の労働の継続は許可せず、定時的巡視、緊急の文書または電話の収受、非常事態発生の準備等を目的とするものに限って許可すること」としている。この点を本件宿日直勤務についてみると、前述のような実態からしてこの基準に合致しないことは明らかである。特に、本件の場合は通常の労働の継続にあたる労働が多くあり、また、実労働時間の占める割合が著しく高いことなどから、とうてい「常態としてほとんど労働する必要のない勤務」などといえるような実態ではない。

また、前記許可基準のうち、頻度の点については「一定期間における勤務回数が頻繁にわたるものについては許可を与えない」こととし(昭和二三年一月一三日基発第三三号)、具体的には「原則として日直については月一回を、宿直については週一回」を基準としている(昭和二三年四月一七日基収第一〇七七号)。この点についても、本件では宿直については全員必ず週二回行なうこととされ、また、日直についても必ずしも月一回に限らず二回以上行なう場合が多く、極端な場合は、宿直が連続して二日間行なわれるため拘束時間が連続して五六時間にも及んだり、あるいは宿直、日直、宿直、本務が連続して行なわれるため拘束時間が四八時間に及ぶ場合もあり、この基準を著しく逸脱している。なお、行政の設定した許可基準では、例外として人員が不足し、かつ「勤務の労働密度が薄い場合」には、実態に応じて週一回を超える宿直、月一回を超える日直についても許可して差支えないとしている(昭和二三年九月二九日基収第三四五八号、昭和三三年二月一三日基発第九〇号)。しかし、本件宿日直勤務の前述したような実態からすれば、「勤務の労働密度が薄い場合」にあたらないことはいうまでもなく、したがって、こうした例外に該当しないことは明白である。

以上のように、勤務の態様及び頻度についての二つの基準からみて、本件宿日直勤務は二三条許可が与えられるような「断続的な業務」にはあたらない。また、こうした基準以外にも、前述した宿日直勤務の諸特徴からしても、法第四章の原則規定の適用が除外されてもよいような「断続的な業務」とはとうていいえない。したがって、仮に規則第二三条が有効な規定であったとしても、本件ではその適用を受ける余地はないといわなければならず、本件宿日直勤務には所定の割増賃金が支払わなければならない。

5  抗弁1(六)につき、前段は認め、後段は争う。

被告は、本件宿日直勤務につき二三条許可を受けていない。二三条許可は、法第四章に規定された諸原則の適用除外を受けるための絶対要件であり、この「許可」を受けていない本件では、当然所定の割増賃金が支払われなければならない。

被告は、右許可を受けていなくとも、宿日直勤務の実態が許可を得られるような「断続的な業務」である場合には、割増賃金の支払義務は生じないと主張するが、勤務の実態を論ずるまでもなく、許可を受けてないという手続的瑕疵のみによって、法第四章の諸原則の適用除外を受けるための要件を欠いているといわなければならない。その理由としては、まず、規則第二三条及び法第四一条第三号の規定が、いずれも文理的に、断続的労働であることの実態があることのほかに許可を得ること自体を原則規定の適用除外のための独立の要件としていることがあげられる。また、法の立法目的、すなわち、法は労働者保護法として労働条件の最低基準を定めたもので、強行法規性を有することはいうまでもなく、その点からすれば、この基準については使用者による恣意的な扱いを許す余地はないから、行政庁の許可という手続面での準則はこうした最低基準を現実の労使関係の場において維持させるための重要な担保であり、使用者がこれに違反した場合には、単に刑事制裁を受けるにとどまらず、特別な民事上の免責効果も付与されないと解すべきである。特に、本件のように、法で定められた最低基準自体が例外的に適用されない場合を規定しているときには、その要件は厳重に定められるべきであり、使用者による恣意的扱いをより一層排除するために、実態面のみならず手続面での要件についても、それが充足されない限り、こうした例外的な割増賃金の支払義務の不発生という民事上の効果そのものが発生しないといわなければならない。

したがって、本件では、労働基準監督署長の許可を受けていないことは明らかであるから、宿日直勤務の実態を論ずるまでもなく、当然所定の割増賃金が支払われなければならない。

6  抗弁2の消滅時効の主張は、時機に遅れた防禦方法として、民事訴訟法第一三九条により却下されるべきであると共に、本件は準備手続を経ているが、右主張は準備手続調書またはこれに代わるべき準備書面に記載されておらず、右調書等に記載せざる事項として民事訴訟法第二五五条により主張すること自体許されない防禦方法である。

被告は、消滅時効の主張を昭和四七年一二月二三日の訴提起以来六年間の審理期間中何ら主張せず、今まさに弁論が終結されようとしている昭和五三年一〇月一六日の段階に至って初めて主張したものであり、右主張が遅れたことは被告の故意又は重大な過失に基づくものである。また、選定者らは右主張に対し時効中断の主張及び立証をすることを余儀なくされるのであり、その結果訴訟の完結を遅延させるものであることは明らかである。それ故、民事訴訟法第一三九条により却下されるか、または、同第二五五条によって主張できないものであるといわなければならない。

五  再抗弁

仮に、被告の時効に関する主張が許されるとしても、選定者らは昭和四五年七月一日から同年一一月までの間に行なった宿日直勤務に対する超過勤務手当未払分につき、被告に対し、昭和四七年七月八日付内容証明郵便をもってその支払を求めて履行を催告し、右書面はその頃被告に到達し、その後六ケ月以内である昭和四七年一二月二三日に本訴を提起した。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁事実は認める。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因1ないし5の事実は、いずれも当事者間に争いがない(但し、別紙四の一三枚目竹中繁の昭和四五年七月から同四六年四月までの深夜割増賃金の一時間あたりの単価は同表の計算上の数値(六二四円)に拘らず六二三円としての請求であると認める)。

二  そこで、抗弁1について検討する。

抗弁1の事実中、大阪市教育委員会及び選定者らが勤務する各学校の園長または学校長が二三条許可を受けていないことは当事者間に争いがない。

ところで、原告らは、法第四一条三号及び規則第二三条の適用範囲並びに規則第二三条の法的有効性について争うので、まずこの点について考察する。

法第四一条第三号は、労働密度が特に稀薄で、身体または精神緊張が比較的少なく、労働若しくは業務が間歇的であるため、労働時間中においても手待ち時間が多く実作業時間が少ない労働に従事する労働者について、その労働の特殊性の故に労働時間、休憩及び休日に関する厳格な法の規定を等しく適用することがかえって他の労働の規制と実質的均衡を失する結果になる場合において、法定の厳格な制限を加えることなく所轄行政官庁の規制にゆだねることによって当該労働者の保護に欠けることがないようにするとの趣旨のもとに規定されたものであり、右立法趣旨からすれば、法第四一条第三号は、その規制対象を断続的労働を本務とする者に限定していると解すべきではなく、他の業務に従事する者がその本務以外にこれに附随して宿日直勤務に従事する場合においても、本務とこれに附随する宿日直勤務を合わせ一体として考察し、労働密度の点から過度の労働に至らず、労働時間、休憩及び休日に関する法的規制を宿日直勤務に関する限り除外しても労働者の保護に欠けるところがないと認められる場合をも包摂する趣旨の規定と解するのが相当であって、規則第二三条は、右のような労働内容をもつ宿日直勤務という断続的業務について法第四一条第三号の適用のあることを示す、いわば同法条の特殊な場合の解釈規定と解すべきである。

よって、原告らの前記主張は理由がない。

右のとおり、規則第二三条は法第四一条第三号の解釈規定であるから、規則第二三条にいう所轄労働基準監督署長の許可は、法第四一条第三号の行政官庁の許可に相当するものであるが、法第四一条第三号は法第四章及び第六章の労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用を除外するにあたり、当該労働が単に監視または断続的労働であるとの実体的要件のみならず行政官庁の許可を形式的要件としているのである。すなわち、法は届け出や行政官庁の認定(たとえば第一九条第二項等)と行政法上一般的禁止の解除を意味する許可とを用語上区別したうえで、法第四一条第三号においては許可を要件としていること、同条第三号は、監視または断続的労働という労働密度の稀薄な特殊な労働につきその特質に相応した規制をするため、形式的な労働時間や休憩及び休日に関する制限をとり除きはするものの、実質的に法第四章及び第六章の規定する労働時間、休憩及び休日に関する規定の趣旨を生かし、それを確保し、もって労働者を保護するとの労働基準法の目的を達成するため右制限の除去を行政官庁の許可にかからしめたものであり、これを詳論するならば、監視または断続的労働といっても千差万別であるため同条第三号の許可を付し得る労働か否かにつき実態調査をし、実状を十分把握したうえで許可・不許可を決する必要があり、また、許可するに際しても全面的かつ画一的に第四章及び第六章の労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用・不適用を決するのでなはく、当該許可に附款を付することによって労働の実態に即応した労働時間、休憩及び休日に関する規制をなし、もって労働者の保護に十全を期することとしたのであり、単に監視または断続的労働であるか否かを認定すれば足りるというものではないこと、さらには、行政官庁は一般に許可制度を通じて社会情勢に即応した労働行政目的を実現すべき責務を負っているものということができるところ、労働者の労働時間、休憩及び休日に対する行政官庁の監督的機能の実効性を十分に担保することからも、法第四一条第三号の許可は文字どおり一般的禁止を特定の場合(本件では監視または断続的労働の場合)に特定人に解除するとの意味の許可と解さなければならないのである。

そこで、法第四一条第三号所定の許可の意義を右のように解した場合、法は前記実体的、形式的二要件を法第四章及び第六章で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用除外の要件としているところ、監視または断続的労働に従事する者について、同条の許可を受けないで法第四章及び第六章で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定に反する労働に従事させた場合には、右労働が実体的要件を充足するものであったとしても形式的要件を充足していないために右規定の適用を除外される旨主張し得ないものと解するのが相当である。これは、前記説示のごとく規則第二三条が法第四一条第三号の解釈規定であり、同条の許可と二三条許可とは同一のものと解すべきであるから、二三条許可を受けていない場合にも右と同様に規則第二三条の適用を主張し得ず、法の原則にもとるものと解さねばならない。

そうだとすれば、二三条許可を受けていない被告の場合には、被告のその余の主張を判断するまでもなく、被告は選定者らに対し本務を超える宿日直勤務に対し法第三七条によって割増賃金を支払う義務がある。

そして、前記割増賃金の計算の基礎となる賃金は、「通常の労働時間又は労働日の賃金」(法第三七条第一項)であるところ、選定者らの宿日直勤務に対する割増賃金額は前記のとおり当事者間に争いがない。

なお、被告は、選定者らの宿直勤務時間のうち午後一〇時から翌日午前五時までは就寝中の時間であるとの指摘をし、右時間が完全に仕事から離れることを保障された時間であるかのごとき主張をするので、以下若干の検討を加える。

宿直勤務日の午後一〇時から翌日午前五時までは通常就寝中の時間であることについては当事者間に争いなく、(証拠略)を総合すると、宿直勤務日の午後一〇時から翌日午前五時まで(以下、これを深夜という)は就寝して差支えないとの取扱いはなされてはいたが、右就寝について明確な定めがあった訳ではなく、まして右時間帯を休憩時間とする旨の明確な定めもなかったこと、選定者らが別紙三記載の宿直勤務をした時には、校務員一人が宿直勤務をなす、いわゆる単直制であって、宿直室において火災その他緊急の事態が発生した場合に備えて寝泊りする必要があり、それ故自由に校園外へ外出することが許されてはおらず、また、宿直勤務の具体的遂行は慣行に従って運用されてきていたが、PTAその他の会合が催された場合、使用許可は午後一〇時までであっても実際はそれ以降に及ぶ場合があり、ときには午前〇時頃になることもあったこと、そして、右会合の後片付けは原則として、主催者がすることになっていたが、校務員がすることもあり、また、右会合終了後使用した室や校門などの施錠をする作業も残っていたこと、宿直時間中の電話は校務員室に切換えられており深夜学校への電話があった場合応対を余儀なくされること、各学校・園にはプールがあるが、夏場プールに注水すると近隣住宅の水道が出にくくなるため午後一〇時以降に注水しなければならず、また、水量の調節のため深夜に起きる必要もあったこと、深柄に外部から侵入する者があった場合、とりわけ夏場プールを使用するために来る者が多く、それらの者を学校外へ排除する仕事があったこと、さらに校務員によっては右のような職務を遂行するため深夜巡視する者がいたことを認めることができ、外に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定事実によれば、選定者らは、深夜時間中就寝することができるとの取扱いになっていたものの、これを休憩時間などのように完全に仕事から離れることを保障する旨規則等によって規定されていた訳ではなく、現に選定者らは午後一〇時以降も職務に従事し、あるいは電話の応対などの必要が生ずればこれに従事しなければならなかったのであるから、選定者らは深夜時間中も完全に仕事から離れることを保障されていたということはできず、いわば単なる仮眠をなす程度の時間であると解するのが相当である。

よって、被告は、午後一〇時から翌日午前五時までの宿直勤務について深夜の割増賃金の支払を免かれることはできないのである。

三  すすんで抗弁2(時効消滅)について検討する。

1  原告らは、右抗弁が時機に遅れた防禦方法であり、また民事訴訟法第二五五条第一項本文の規定により主張することができない旨主張するのであるが、本件において、被告主張の時効の成否については時の経過という直ちに判断し得る事柄であり、また、原告が仮定的に再抗弁として主張する時効の中断事由については当事者間に争いがなく、その存在が直ちに判断できるものであって、結局被告の右抗弁は時機に遅れてはいるものの訴訟の完結を遅延させる要因とはならないから、民事訴訟法第一三九条で却下することはできず、また、同法第二五五条で主張を許さないとすることもできない。

2  そこで、消滅時効の成否について判断する。

被告は、地方自治法第二三六条第二項、労働基準法第一一五条により右時効を援用する必要がないことから訴訟手続上も主張自体する必要はないと主張する。しかしながら、普通地方公共団体に対する権利で、金銭の給付を目的とするものの時効の消滅については、時効の援用を要しないとの地方自治法上の右規定は、時効の援用をせずとも実体法上時効が完成しその効力が発生することを意味するにすぎず、訴訟手続上その主張さえすることを要しないとまで意味するものでないことは明らかである。

選定者らの本訴提起が、昭和四七年一二月二三日であることは本件記録上明らかであり、選定者らの請求する超過勤務手当は当該超過勤務をした月の翌月二〇日を支払日とすることは当事者間に争いがなく、したがって、選定者らの昭和四五年一一月以前の超過勤務手当は、右支払日から二年を経過していることが明らかである。

しかしながら、再抗弁事実については当事者に争いがないから、右時効は選定者らの被告に対する履行の催告の六ケ月以内である昭和四七年一二月二三日に本訴が提起されたことによって確定的に中断したものということができる。

よって、被告の抗弁2は理由がない。

そうすると、被告は選定者らに対し、別紙四各D欄記載の超過勤務手当金から選定者らが既に宿日直手当として受領した金額を差し引いた別紙二請求金額欄記載の未払超過勤務手当金の支払義務を有するものということができる。

四  以上の次第で、原告らの本訴請求はすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を、仮執行宣言の申立については、右認容金額の三分の一の限度において相当と認め、同法第一九六条第一項を適用し、その余の仮執行宣言申立及び担保を供する右免脱宣言の申立については、その必要がないものと認めこれを却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上田次郎 裁判官 松山恒昭 裁判官上垣猛は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 上田次郎)

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